SGI会長 ロシア連邦サハ共和国ボリソフ文化大臣(北極文化芸術国立大学総長)と語らい
◆◆◆SGI会長 厳冬を超えてこそ"希望の春"が!
逆境が人間を偉大にする
◆◆◆【総長】 サハ共和国と日本に文化の往来を
深き精神の出会いは宝
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池田SGI(創価学会インタナショナル)会長に、世界から150番目の学術的栄誉となる「名誉教授」を贈った、ロシア連邦・サハ共和国の「北極文化芸術国立大学」。
「名誉教授」称号授与式(10日、八王子市の東京牧口記念会館)の後、SGI会長は、同大学のアンドレイ・ボリソフ総長(同国文化大臣)一行と、シベリアや北極圏に生きるサハ共和国の人々をめぐり語り合った。
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【池田SGI会長】 天の芸術・オーロラ。
人間とともに生きるトナカイたち。
美しくきらめくダイヤモンドダスト(寒さで空気中の水蒸気が凍り、日の光に照らされて輝く)――。
貴・サハ共和国は、特別な自然環境を有することから「数千の奇跡のある国」とも呼ばれます。
もっと多くの人に、貴国の魅力を知らせたい。それが「名誉教授」としての責任ですから。
そこで少々、サハの人々について、うかがってよろしいでしょうか。
【ボリソフ総長】 わかりました。喜んで!
■マイナス51度で大喜び!
【会長】 まず、貴国は、ともかく寒い(笑い)。
今はマイナス40度?
【総長】 ええ。私たちが国を出た時、そうでした。冬が寒ければ、いい夏が来る。寒いほうがいいんです(笑い)。
マイナス51度になると小学校は休み。子どもはみんな大喜び(笑い)。外に出て、ソリなどで遊んでいます。
【会長】 マイナス50度だと、吐く息が凍り、耳のあたりで音をたてる。それを「星のささやき」と言うそうですね。
【総長】 そうです! 美しい表現ですが、最近はあまり使われなくなりました。池田会長がご存じとは、感激です。
吐く息が凍って、小さな氷の結晶となり、かすかな音をたてて散るのです。ダイヤモンドダストのように、きらきら光って美しいですよ。
【ザハロワ学部長】 太陽が出ている昼間は、いっそう輝きを増し、本当にきれいです。池田会長に、ぜひ見ていただきたい!
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総長一行は9日に来日。ヤクーツクからハバロフスクを経由して空路で新潟に着いた。日本と時差はない。
この日、新潟の気温は5度の寒さ。しかし零下40度のサハ共和国から来た一行の額には、うっすらと汗さえ浮かんでいた。
厳しい自然のなかで生きてきたサハの人々。しかし、表情は明るい。
一行を迎えた新潟婦人部の友は驚いた。
「想像通り、ぶ厚い毛皮の帽子をかぶっていらっしゃいました。しかし帽子の下の表情は、本当に気さくで陽気。私たちの出迎えに対する喜びを全身で表現してくれました! 」
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【会長】 先ほどスピーチで紹介しましたが、私どもの牧口初代会長は100年前、『人生地理学』という著作で貴国に触れ、極寒のなか、たくましく生活する人々のことを記述しています。
〈「気温と人生」の中で「零下68度、1月の平均気温が零下44度という、シベリアのベルホヤンスクという地方にも、10万5000余の人々が生活している」と〉
【総長】 地球上で最も寒いといわれる地方です。
牧口先生の「人間の強さ」に対する論究(ろんきゅう)は、私たちにとっても、大変に興味深いことです。
■協力しなければ生きられない
【会長】 寒さに打ち勝つ体力づくりや、何か工夫はありますか。
【総長】 体力づくりは考えたこともありません。寒いところで暮らすのが当たり前なので。
その質問は、たぶん、日本の皆さんに「なぜお米を食べるのか」と聞くようなものかもしれません(笑い)。
【学部長】 私たちの祖先は、もっと南に住んでいたようです。アルタイ山脈やバイカル湖などのほうです。遊牧しながら、だんだん北へ移動し、時間をかけて体を慣らしていったのでしょう。
もとは好戦的な民族だったとも言われますが、北へ移動して先住民と交流し、厳しい気候の中で「互いに協力して生きる」ことを学んでいったのではないでしょうか。
体力がある人、また賢く、穏やかな人たちが生き残ったと言われます。
サハの人は観察力が鋭い。あまりしゃべりませんが、相手の全部を見ています(笑い)。
【会長】 どうぞ、お手柔らかに(笑い)。
【学部長】 自分を取り巻く環境をよく見て、学びながら、「厳しい状況の中でも生き残れる技術」をつちかっていきました。
そのなかで自分たちの文化や言葉を守っていったのです。
【会長】 逆境をくぐり抜けた人間は強い。
仏典に,「冬は必ず春となる」とあります。
生あるかぎり希望はある。逆境こそが、人間を鍛え、大いなる使命に目覚めさせる。厳しい冬を越えてこそ、希望の春を迎えることができるのです。
貴国には偉大なる人間が輝いています。
■細菌も動けない
【総長】 私たちは、決して自然を敵視しません。
厳しい寒さを、やっかいとは思わない。たとえば、衛生上は、とてもいい。
マイナス40度といった寒さだとウイルスや細菌が活動できず、疫病は流行(はや)らないのです。
私たちの民族は、使命感をもっています。私たちの自然豊かな広大な土地を守るという使命です。この自然が失われれば、地球環境にとって、計り知れない打撃となるでしょう。
■愛知万博にマンモスを
【会長】 貴国の永久凍土には、マンモスが埋まっています。日本でも注目されています。
〈来年、愛知で開催予定の日本国際博覧会(愛・地球博)に、サハ共和国の永久凍土からマンモスを掘り出し、生きていた時のままの姿で展示する計画が進んでいる〉
【総長】 昨年も学術会議がありました。欧米や日本の学者が集まり、貴重なマンモスについて探究しています。
【会長】 貴国はダイヤモンドをはじめ天然資源、地下資源が豊富です。
以前、貴国に伝わる伝説を聞きました。
「昔、神さまが、シベリア上空を飛んでいた。
ところが、あまりの寒さに手がかじかんで、持っていた大きな袋の口をゆるめてしまった。そこから、ぽろぽろと黄金がこぼれ、ダイヤがこぼれた。こうして豊かなサハの大地が生まれた」
【総長】 とても有名な話です。昔でなく、今、落としてほしい(笑い)。真下で待ちかまえます!(爆笑)
私たちの土地は広大です。わが民族に伝わる英雄叙事詩には、花嫁をさがしていた男性が、連れてくるのに数年もかかった話があります。それほど広いんです。
【会長】 地球温暖化の危機が叫ばれていますが。
【総長】 この10年ほどは暖冬で、シベリアの蚕(かいこ)の幼虫が針葉樹を食べてしまう被害がありました。南の鳥も飛んできます。夏は乾燥し、冬は前より雪が降らなくなりました。
しかし、去年は数年ぶりにマイナス60度を記録し、また寒くなっています。
今月も月の平均気温はマイナス50度です。
私たちは、北極圏とそこに近い地域の自然、伝統を大事にしたい。自然と一体になって生きる文化を大事にしたい。だから、大学名に「北極」と冠したのです。
日本は「日出づる国」ですが、私たちは、北極圏を「新鮮な風の吹く土地」と呼んでいます。
■北極星のごとく不動の柱の人に
【会長】 牧口初代会長の『人生地理学』では、北極星や北斗七星のことも言及されています。
たくさんの星の中で、人間の生活に最も影響を与えるのが北極星であると。
【総長】 まったく、その通りだと思います。
小さいころ、(北斗七星を含む)おおぐま座は「なんて近くにあるんだろう。
手に取れそうだ」と思ったものです。
サハには宇宙線の観測所があり、ロシアはもちろん、世界の人々が訪れます。
空気が澄んでいて、星がよく見えるのです。
【会長】 牧口会長は、「たくさんの星があるなかで、北極星は位置確定の基準の星となり、航海者の目標となる」と述べています。
さらに、「徳をもって政治を行えば、不動の北極星にたくさんの星が向かい従うように、民衆はその徳を慕ってついていくだろう」との『論語』の言葉を引いています。
【総長】 私たちのヤクート語では、北極星のことを「天の支柱」と呼びます。
きょう、池田会長とお会いし、会長こそ「民衆の支柱」であると確信しました。
【会長】 温かいお言葉、感謝します。
私こそ、「天の支柱」の大学から、150番目の栄誉を賜(たまわ)ったことに深い意義を感じます。
■人と会え! そこから友情が!
【総長】 私は、これまで池田会長の対談集を、たくさん読みました。わが友人であるアイトマートフ氏との対談集も読み、会長の人間愛に深く感銘しました。
会長は、偉大な英知の人です。きょうは、会長が発する清らかな音楽、清らかな空気に心が洗われました。
会長は、たくさんの青年を育てておられる。人類にとって、かけがえのない方です。どうかお体を大切にしてください。
【会長】 ありがとうございます。
【総長】 池田会長は、きょう、文学者オユンスキーの言葉をはじめ、私たちが大切にしている「サハの心」を、会長の思想に重ねて紹介してくださいました。本当にうれしく思います。
今後も、ぜひ日本とサハの文化交流を続けていきたいと思います。
【会長】 やりましょう!
友情は、まず知り合うことです。会えば、何かが生まれる。心が通う。
民衆と民衆、文化と文化の出会いこそ、平和の出発点と信じます!
◇
名残を惜しみつつ、帰途につく一行。出会いを振り返り、総長は語っていた。
「きょうの集まり(名誉教授称号授与式・本部幹部会)は本当に感動しました。
私は、演出家なので、、どうしても舞台裏や演出に目が行きます。きょうの会場の、特に青年の方々の目を見て、『これは、作ろうと思って作れるものではない』と確信しました。
心が鼓舞されました。こんな気持ちは、何十年来なかったことです。
私の人生にとって、かけがえのない一日となりました。
池田会長のような深い精神性、哲学性をもった人物と出会う。これこそ人生にとって肝心要(かんじんかなめ)のことだからです! 」
2004.1.10