メキシコ・人文統合大学「名誉人文学博士号」授与式から
池田博士は民問外交・文化交流の
分野で比類なき業績を示された
ガリンド学長の授賞の辞
1981年、池田大作博士がメキシコの大学と交流されるため、わが国をご訪問された際、私は初めて博士とお会いしました。池田博士ご夫妻一行を大統領官邸にお迎えし、和やかに語り合わせていただきました。
池田博士は教育、国際的な対話運動、平和行動、民間外交、文化交流などの分野において、これまで類を見ない業績を示してこられました。また、20を超える言語に翻訳された哲学、文学、宗教、教育、経済、政治をテーマとした多作の著述家、文筆家、桂冠詩人であられます。
私は池田博士との最初の出会いにおいて、その人間性とバイタリティーを直感しました。
本来、池田博士のご功績のすべてに言及させていただきたいところですが、わずかな時間では紹介しきれません。
私は、当時、1969年に創立した人文統合大学の学長であったとともに、ソル・ファナ最高学術院の院長の任にあたっていました。
人文統合大学は、人文科学とメキシコ文化の普及、女性の知的向上、家族の統合を目的とし、人文科学および文化・観光学を学部教育の中心に据え、大学院修士レベルでは、メキシコ現代芸術、メキシコ史、現代ラテンアメリカ文学および価値・倫理的視座による哲学を中心に数多くの講座を設置しています。
一方、ソル・ファナ最高学術院は、17世紀に誕生した著名なメキシコ人作家であるソル・ファナ=イネス・デ・ラ・クルスが生涯の大部分を過ごし、その中心的著作を生み出した場所です。
後年、池田博士が設立されたメキシコSGIに所属し、本学で教鞭を執っていた女性から、メキシコシティーで池田博士の写真展が開催されると聞きました。
会場を訪れた私は、池田博士が執筆された興味深い書籍と出あうこととなったのです。博士の著作を読み進めるにつれ、私は、私が学生たちに主張している教育理念との重要な共通点をそこに見出しました。
その後、国籍、宗教、人種の異なる3人の傑出した人道主義者を取り上げた"ガンジー・キング・イケダ展"をはじめ、さまざまなイベントに参加するなど、メキシコSGIとの交流を続けてまいりました。
2005年3月には、本学の学術セミナーにメキシコSGIのイノウエ青年部長に参加していただきました。
その後、リオス理事長を通し、文化交流に最もふさわしい、池田博士が創立された創価大学において、日本交流を行わせていただく可能性について協議させていただきました。
そしてこのたび、海外初となる本学の「名誉人文学博士号」の授与のため、また文化交流のため、美と伝統を誇る日本に、大きな期待をもってやってまいりました。
これまでに本学の「名誉博士号」は、人道的業績およびその著作によって、傑出した4人の人物に授与されています。
私は、確たる意見と、伝える力を持つすべての人々は、池田博士がなされてきたように、平和と共通の利益のために声を上げなければならないとの確信を抱いております(大拍手)。
本日、池田博士に本学の「名誉博士号」を授与させていただくことを、大変光栄に存じます。
池田博士との出会いはとても素晴らしい思い出として残っており、その後、再会する機会はありませんでしたが、世界的な人間主義者としての慈愛に溢れた博士の著作を通して、常にその思想に触れてきました。
そして、今回のわが大学の第18回文化交流において、池田博士への「名誉博士号」授与式を挙行させていただく運びとなりました(大拍手)。
文化交流では、お互いの歴史、文化、伝統や民俗的要素、また音楽、舞踊、詩歌など、民衆の感受性を表すあらゆる表現を理解することによって、民衆間の絆を強めることを目指しています。
池田博士と令夫人におかれましては、益々ご長寿で、世界レベルでの卓越した人道主義の戦いを続けられますことを心よりお祈り申し上げます。
「人文科学こそ至高への道」(大学のモットー)と申し上げ、授章の辞とさせていただきま
す。
ありがとうございました(大拍手)。
池田SGI会長の謝辞
貴国の大詩人アルフォンソ・レイエスは、謳いました。
「『人間』と『自然』そして『たえまない教育』に対して、信ずる心を失わぬ人の言葉は、どれほど深い安らぎを与えてくれることか!」と。
26年前、私と妻は、メキシコシティーの大統領官邸で、一人の偉大な人間教育の女性指導者にお会いしました。
その方の深き知性と哲学と信念の一言一言は、まさしく深い安らぎをもたらしてくださり、今なお、私たちの心に美しく響きわたって、離れることはありません。
その大教育者ガリンド学長ご一行を、創価大学にお迎えすることができ、この上ない喜びでございます。
メキシコが誇る「人文教育」と「女性教育」の最高峰の殿堂の栄誉を、私は、満腔の感謝を込めて、謹んで拝受させていただきます。
誠に誠に、ありがとうございます。
「メキシコへ行った夢を見たよ」と、私の人生の師匠である戸田城聖先生は、逝去の直前に病床で、私に語りました。それほどまでに、貴国を敬愛する恩師の心情には、深い深いものがあったのです。
ゆえに、貴大学からの「名誉人文学博士」の称号を、この先師に捧げさせていただけることは、私にとりまして無上の光栄なのであります。
青年よ限りなく羽ばたけ
人文学は精神の飛翔の翼新たな創造の力
メキシコの大詩人「私は財産を望まぬ 豊かな知性こそ喜び」
「教育とは、人間の向上に寄与すべきものである」──これは、学長の崇高な教育哲学です。この教育の本義を実現していくための推進力こそ、貴大学が重視してこられた「人文学」でありましょう。
「人文学こそ至高への道」との貴大学の指標に、私は心から賛同する一人です。
まさしく「人文学」とは、いかなる差異も乗り越えて、人間生命の内奥に至高の尊厳を見出しゆく光であります。
それは、青年をして、いかなる障害も見下ろして、限りなき精神の高みへと飛翔させゆく翼であります。
そしてまた、この世界に花開いた、多種多様な、あらゆる人間的な文化に理解と共感を広げ、新たな創造を生み出しゆく力なのであります。
そうした「至高への道」を勇み歩んでいった、貴国の尊き先人こそ、女性の大詩人ソル・ファナ=イネス・デ・ラ・クルスです。
貴大学の建学の精神の象徴たる、ソル・ファナの詩には、高らかに謳われています。
「私は宝も財産も望まない。喜ばしいことは知性を豊かにすることである」
真の知性は、はかなき虚栄を打ち破ります。
真の英智こそ、人間の王者の宝冠であります。
圧倒的な男性優位の時代に、若きソル・ファナは、あらゆる分野の40人もの学者らと言論で対峙し、次々と鮮やかに勝利していったと伝えられます。
その知恵の輝きゆえに、妬まれ、迫害もされました。しかし、ソル・ファナの明晰な眼は、嫉妬の迫害の本質を、悠然と喝破していました。
「攻撃されることは有名であるがゆえに支払わねばならぬ代償なので、私の意気を挫くことはありません」(オクタビオ・パス著、林美智代訳『ソル・ファナ=イネス・デ・ラ・クルスの生涯──信仰の罠』土曜美術社出版販売)
「手柄を罪とすりかえることは この世間になんと古くからあることでしょうか」(同)
いわれなき圧迫を受けながら英知を求め抜いた、ソル・ファナの精神闘争と、先駆的な女性教育の提言は、今や、世界の女性の希望として燦然と光を放っています。
思えば、1968年、あのメキシコ・オリンピックでは、聖火の最終ランナーを、20歳の女性が担い立って、「女性の世紀」の開幕を劇的に世界に告げました。
「人文学」の聖なる火を燃え上がらせた一人の女性が、どれほど、偉大な平和と創造の光彩を放っていくことができるか。その希望の証明を果たしておられるのが、ここにお迎えした学長であり、そして貴大学なのであります。
学長は、「女性の社会的地位の向上、女性の知的向上、これこそ、社会を変革していくのです」と強調されました。
そして、貴大学が模範となって、各界に英知の女性を送り出し、社会をリードしておられることに、私は最大の敬意を表します。
私自身、21世紀は「女性の世紀」であると訴えてきました。それこそが「生命尊厳の世紀」そして「平和の世紀」を開く大直這であると、確信してやまないからです。
その「平和の世紀」の創出において、貴国は誇り高く、人類の先頭を進んでおられます。
1967年、広大な地域を非核地帯とすることを定めた、画期的な「トラテロルコ条約」(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約)の調印から、本年で40周年です。
この条約が、貴国の高邁なリーダーシップによって締結をみたことは、あまりにも有名な史実であります。
じつは、その10年前、1957年、私の恩師は「原水爆禁止宣言」を発表しました。
核兵器を廃絶し、世界の民衆の生存の権利を死守することを、青年への第一の遺訓としたのであります。
21世紀は女性の世紀
それは生命尊厳と平和の世紀
学長が敬愛される貴国の大哲学者アグスティン・バサベ博士が、「単に悪を避けて通ることに終始し、なにも建設しなければ、傲慢であり、エゴであり、惰性である」と叫ばれた通り、大事なのは具体的な行動です。
ともあれ、あの歴史的な「トラテロルコ条約」の調印の舞台となった貴国の外務省で、2002年に「核兵器──人類への脅威」展を開催するなど、幾重にも「平和の大国」メキシコとの連帯を広げさせていただいたことを、わが恩師も会心の笑顔で見守ってくれているに違いありません。
「教育と文化の交流によって、平和の建設を実現する」との学長の黄金の信念を、私たちも深く強く共有しております。
教育・文化の交流こそ、人類、そして生命という普遍の大地に立って、各国・各民族の多様性を調和させ、新たな創造力の薫発へと生かしていく道だからです。
その素晴らしき模範こそ、世界のすべての人びとに開かれた、貴国メキシコの人文学の最高学府なのであります。
本日よりは、私も貴大学の誉れある一員とさせていただき、貴国と日本、さらにラテンアメリカとアジアを結ぶ、太平洋の平和の懸け橋を、さらに強く広く結んでいく決意であります。
結びに、貴大学に無窮のご繁栄あれ! 愛するメキシコに不滅の栄光あれ! と叫び、ご臨席のすべての先生方のご健勝を心よりお祈り申し上げて、私の謝辞とさせていただきます。
ムーチャス・グラシアス!
本当に、ありがとうございました(大拍手)。
創価大学に通う部員さんが役員として参加した。
師匠との原点になることを祈りつつ――